世界的な大流行であるコロナウイルス。歯科医院は感染のリスクが高い、不要不急の治療は控えるべきなど、いろんな情報が錯綜しています。

そこらへんの議論に首を突っ込む気はありません。ただ、不要不急の歯科治療はほとんどないと考えています。定期的なクリーニングも、その時点で医学的に必要なために、患者さんに定期検診のお知らせの葉書・メールを出しているわけです。ただし、ホワイトニングや審美についての治療については、不急だと考えています。

これらを踏まえた上で、それぞれ患者さん・歯科医院が独自に判断すれば良いと思います。例えば、遠方の病院に電車で通っている場合は、リスクが大きいです。逆に歩いて通える距離であれば、リスクは低いと考えられます。

さて、今回は、お口の中を綺麗にし、清潔に保つことで、インフルエンザやコロナウイルスに対する予防策となるのか、根拠となる論文をもとに、考察してみたいと思います。

専門的な口腔ケアはインフルエンザの予防に有効

Abeらの論文 *1によると、専門的な口腔ケアは高齢者のインフルエンザの予防に対して有効である、と報告されています。

ここで言う高齢者は、普段は自宅にいて、週一回デイケアサービスに通っている人たちです。

この研究における専門的な口腔ケアとは、週一回、歯科衛生士による、歯ブラシ、フロス、舌ブラシを用いた清掃のことです。

結果として、口腔ケアを受けた人達が、受けなかった人達よりも、唾液の中の細菌の数が有意に減り、インフルエンザ発症のリスクは10分の1になりました。

しかし、通常の風邪に関しては口腔ケアは効果がないという結論になっています。

専門的な口腔ケアは誤嚥性肺炎に有効

Adachiらの論文*2によると、専門的な口腔ケアは、高齢者の誤嚥性肺炎に有効である、と報告されています。

この研究は、二つの老人ホームの高齢者を対象に行われました。

専門的な口腔ケアとは、歯科衛生士により、毎週ハンドスケーラーによる歯石除去を含めたクリーニングを中心に、電動歯ブラシ、歯間ブラシ、スポンジブラシを用いて、入れ歯も含めて、清掃しました。

通常のケアは、老人ホームのスタッフがスポンジブラシを用いて拭き取り、入れ歯も綺麗にしました

結果は、専門的なケアを受けた群が誤嚥性肺炎での死亡率が有意に低くなりました。

口腔ケアのコロナウイルス(COVID-19)に対する効果についてはまだ不明

口腔ケアがコロナウイルス予防に効果があるか、についてはまだデータがありません。これからに期待ですね。

うがいに用いる洗口剤

歯科医院によってはPOICウォーターなどと呼ばれる次亜塩素酸水をコロナウイルスに効果があると販売しているところもあります。

しかし、法律や国の認可の点からあまり勧められるものではありません。

以下のVtuberがわかりやすく次亜塩素酸水について解説しています。

消毒に関しては、アルコールが一番ですが、今は足りない状況なので、次亜塩素酸を用いている、ということですね。

Fallahiらの論文*3によると、現在うがいに用いるよう推奨されるものは、0.2%ポピドンヨード(いわゆるイソジン)か1%過酸化水素水です。

日本で簡単に手に入るのはイソジンなので、イソジンでうがい、で十分だと考えられます。

歯科治療中のラバーダム防湿が歯科医療従事者に対して有効

少し話がそれますが、Fallahiら*3は、歯科治療中のラバーダム防湿について、治療中のエアロゾルが70%減少すると報告しています。

ラバーダム防湿は苦しい?そんなことありません!以下の記事で紹介しています。

まとめ

論文的には、口腔ケア、クリーニングがインフルエンザには有効でも、コロナウイルスに有効であるとはいえません。

また今回紹介した論文は、高齢者を対象にしている為、一般の人に対する効果も不明です。

しかし、お口の中を綺麗に保っておくことが、感染症に対して悪影響を及ぼすとは考えにくいですし、やって損はありません。

今は、在宅などで家にいる人が多いので、セルフケアに時間が割けると思います。

しっかりコロナ感染対策を行なっている歯医者が近くにあって、定期検診の時期なのであれば、歯医者に行ってもいいと思います。そこは、ご自身の判断で。

フロスとフッ素入り歯磨き粉を使って、しっかりセルフケアもしましょう!

参考文献

*1Professional oral care reduces influenza infection in elderly.(Arch Gerontol Geriatr. 2006 Sep-Oct;43(2):157-64.)

*2Effect of professional oral health care on the elderly living in nursing homes.(Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2002 Aug;94(2):191-5.)

*3Being a front-line dentist during the Covid-19 pandemic: a literature review.(Maxillofac Plast Reconstr Surg. 2020 Apr 24;42(1):12. )