今回の口臭の記事に用いた論文について少し考察していきたいと思います。

口臭は、一般的に「口腔を通して発せられる社会許容限度を超えた不快なにおい」と定義されています。口腔のみならず、鼻腔、気道および肺など、口腔と交通のある全ての器官がその発生源となり得ます。しかし、実際のところその発生源は歯科の専門領域である口腔局所に限られていることが多く、80%以上は口腔由来であるといわれています。

(Microbiology and treatment of halitosis. Periodontol 2000. 2002;28:256-79.)

口臭を表す英単語

Breath odor, malodor, bad breath, halitosis, bro-mopnea or fetor ex ore are terms sometimes used to denote an unpleasant, foul, and sometimes offensive breath. 

Breath odor: etiopathogenesis, assessment and management. Eur J Oral Sci. 1997 Aug;105(4):287-93.

と言うわけで、いろんな言い方があるみたいですね。

口臭治療のガイドライン

国際口臭学会の定めたガイドラインによると、口臭の治療必要性として、TN1~TN5の5分類が提唱されています。(宮崎他,1999、Yaegaki K and Coli JM,2000)

口臭治療のガイドライン💡

TN1:説明および口腔清掃指導(TN2-5にはいずれもTN1が含まれる)

TN2:専門的歯面清掃(PMTC)、疾患治療(歯周病治療など)

TN3:医科への紹介

TN4:結果の提示、専門的保健指導、カウンセリング

TN5:精神科・心療内科・歯科心身症外来などへの紹介

では、それぞれ口臭の症状に当てはめていきましょう。

真性口臭症

生理的口臭:TN1

病的口臭

  1. 口腔由来:TN2
  2. 全身由来:TN3

仮性口臭症

治療の必要性:TN4

口臭恐怖症

治療の必要性:TN5

口臭恐怖症の患者さんへの対応

口臭恐怖症(pseudo-halitosis または halitophobia)は、真性口臭症、仮性口臭症に対する治療では訴えの改善ができないものを言います。一般歯科開業医の治療範囲ではありません。

大学病院にある、歯科心身症外来を紹介するか、歯科心身症専門クリニックもあるようなので早めに紹介することをおすすめします。

Genuine halitosis, pseudo-halitosis, and halitophobia: classification, diagnosis, and treatment. Compend Contin Educ Dent. 2000 Oct;21(10A):880-6, 888-9; quiz 890.

以上の論文によると、初めにしっかりと問診することが大事である、と同時に、口臭恐怖症の患者さんをそのまま管理することで、受診前よりも、心理状態が悪化する可能性がある、と述べています。

自分の手に負えない、と感じた時点で早めに紹介することが大事です。

口臭に年齢は関係ない

Correlation between volatile sulphur compounds and certain oral health measurements in the general population. J Periodontol. 1995 Aug;66(8):679-84.

この論文では、男性と女性の間には揮発性硫黄化合物(VSC)に有意差を認めず、また年齢は揮発性硫黄化合物を増加させる危険因子ではないと述べています。男女関係なく、若い人でも、ケアを怠っていれば臭くなると言うことですね。

口臭についてまとめ

以下の特集はまとまっていて読みやすいです。

官能試験のやり方も記載されているので、参考にすると良いと思います。

(歯科外来における口臭測定 2005 年 36 巻 5 号 p. 261-265、J-STAGE)

歯周病の人の口が臭い理由

口腔内 VSCは歯周病の重篤度とともにその濃度が増す ことが明らかにされている。生理的口臭症患者の 口腔内 VSC 濃度は通常、硫化水素>メチルメルカプタ ンの順に大きいが、歯周病患者の場合メチルメルカプタンの濃度が高くなることがしばしば見られる。CH3SH/ H2S 比が高いことは歯周病口臭の特徴である。さらに、メチルメルカプタンは硫化水素に比べて不快度が高い。したがって,歯周病患者に強烈な口臭を感じることが多い。

歯科外来における口臭測定( 2005 年 36 巻 5 号 p. 261-265、J-STAGE)

さらにメチルメルカプタンは、毒性が強いため、歯周組織破壊にも関わってきます。まさに負の連鎖です。

他にも以下の論文で同じようなことが述べられています。

Periodontal diseases as a source of halitosis: A review of the evidence and treatment approaches for dentists and dental hygienists. Periodontol 2000. 2016 Jun;71(1):213-27. 

洗口剤の論文

Treatment of oral malodour. Medium-term efficacy of mechanical and/or chemical agents: A systematic review. J Clin Periodontol. 2015 Apr;42 Suppl 16:S303-16.

有効成分クロルヘキシジン+塩化セチルピリジニウム+亜鉛(CHX + CPC + Zn)および塩化亜鉛+塩化セチルピリジニウム(ZnCl + CPC)を含むうがい薬は、効果が高いようです。クロルヘキシジンと塩化亜鉛の相乗効果について、述べているものもありました。

口腔乾燥と口臭の関係

Role of saliva in oral dryness, oral feel and oral malodour. Int Dent J. 2002 Jun;52 Suppl 3:236-40.

興味がある人はどうぞ。

最後に

日本人の人口の25%は、社会的に許容される量を超えるVSCを呼吸中に持っている、と報告されています。

(Oral malodor in the general population of Japan. Bad breath: researeh perspectives, Tel Aviv Ramot Publishing, 1995: 120-136.)

患者さんの4人に1人は、口臭を持っていることになります。歯医者にくる患者さんは少しモチベーションが高いと言っても20%くらいはいるのではないのでしょうか。

患者さんとのコミュニケーションで、口臭、という生活に身近なワードで、患者さんのモチベーションをうまくあげることができると良いですね。